亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

背中を這う悪寒と、気持ちの悪い冷や汗。
狩人やそこの大蛇を相手にしている時とは明らかに異なる緊張感に、ごくりと唾を飲み込んだ。
やはりこのイブという奴は、自分の中ではある種の特別な存在…毛嫌いしていても無意識下では一目置いている奴なのだ。あれ程自由の利かなかった身体が、イブを前にして自然と身構えようとしている。闘争心が、湧いてくる。

痺れが走る指で短剣を握り直し、さあ…どちらから動くのか、と体勢を低くしながら相手の動きを窺っていると、イブの背後からけたたましい呻き声が響き渡った。

それは明らかに大蛇の鳴き声。イブに殴られてのびてしまっている方とは違う、もう一匹の大蛇の口が吠えたものだったが、鼓膜に触れた途端、それが単なる咆哮ではないことが分かった。





………高周波だ。


耳を劈くそれはここ一帯の空気を切り裂き、リストの無防備な鼓膜に体当たりしてきた。鈍器で頭を殴られた様な目眩と共に、三半規管が一時的に麻痺したのか、方向感覚が馬鹿になった。…胃から食道にかけて凄まじい吐き気が襲う。

くらりと一瞬意識が朦朧とし、リストは目を覆いながら一歩後退した。……だが、時は彼に休息の一時を与えてはくれない。




…直後、無意識の中。覆っていた両目とは違う額の第三の目が、ほとんど反射的にカッと大きく瞼を開いた。
リストの赤く染まった獣の瞳は前髪の隙間から前方を隈なく映し…………こちらに飛びかかってくるイブの姿を捉えた。



目玉は三つも要らないと思っていたが、案外役にたつではないか。




「―--…うおぉっ…!?」

第三の目万歳!、と心中で叫ぶのとほぼ同時。リストは間一髪のところで、鋭利な爪を尖らせて真っ二つに掻っ捌こうとしていたイブの両手を、同じく両手で受け止めた。
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