亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
互いに引く気配の無い、押し合い。…否、これは恐らく力で負けた方…引いた方が、負けだ。
両手に絡んだイブの細い指が、ギリギリとリストの手に食い込んでくる。長い爪が食い込まないだけでも有り難いが、これはこれで両手の骨が砕かれそうで危ない。…素の姿、野獣フェーラに戻ったイブの力は、予想以上に強大だ。いつもの人間の皮を被ったへらへらした状態の彼女の、二倍、三倍…それ以上の力だ。

…自分もこの残り少ない人の理性を手放してしまえば、それでやっと互角になるかもしれないが……それは絶対に嫌だ。


「……目を…覚ませ………馬鹿が…!!」

「…………フウウウゥ…」

負けてなるものかと大きく一歩前に踏み出したが、イブは仰け反るどころか不動を維持し、余裕しゃくしゃくといった様子でその裂けた口でにんまりと不気味に笑う。………ここに有能な絵師がいたら、絶対にその面を描かせていたところだ。そして事が全部終わったらこいつに見せてやるのだ。これがお前だよ馬鹿野郎!…と。

この押し合いがいつまで続くのか、誰にも分からないであろう視界の悪い猛吹雪の中。周囲から、大蛇の気配をリストは感じ取った。グルグルと辺りを徘徊している様だが…生憎、こっちは構っている暇など無い。今ここで襲いかかって来られたら………一溜まりも無いことは明白。

どうかあと十分、せめて五分待ってほしい。…そんなのは無茶な話で、リストの切望も空しく……押し合いを続ける二人の真横から、大蛇の大きく開いた口が突っ込んできた。



(―――って……おいおいおいおいっ…!?)


この…!…アレクセイみたいに空気を読まない奴め…!一気に近づいてくる赤い口を他人事の様に眺めながら、小さく舌打ちをした。…私は空気を読まないのではなく読めないのです…なんて毎度の様に聞く既に耳に蛸の台詞が脳裏を過ったが……ああもう、そんなのどうでもいい。

どうする。

どうすれば?



悪あがきをしようにも悪あがきの仕方が分からない。これはどうしようもないのか!?…と、人生で何度目になるのか分からない命の危機を感じた直後。










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