亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
小袋の紐を解いて隙間から中を覗けば、見るからに苦そうな黒々とした丸薬が詰まっていた。

お前、薬も作れるのか…本当に何者だよ…と呟き、リストは豪快に一掴みした分を口に含んだ。この時点で完全に全身が麻痺していたのか、舌は丸薬の不味ささえも感知出来ないほどだった。
ジンがいなければ、今頃は獣となっていたに違いない。

「…気遣いは有り難いが…こんな事態に、休息なんかとっていられるかよ。そんなこと、お前だって分かってるだろう……っと」

言い終える寸前、リストはジンの方に顔を向けたまま、雪中からこちらに向かって飛び掛かってきたイブの頭を鷲掴みし、耳まで裂けたその口に残りの丸薬を全て放り込んだ。
口を閉じさせて強引に飲み込ませれば、それまでの元気の良さは何処へやら、イブはその場でパタリと倒れた。…即効性のある、強力な鎮静剤の様だ。

「…陛下は?……お前、護衛だろ?」

「やむを得ない事情故に今は別行動ですが、こちらで合流の予定です。私はトゥラと共に参りましたが、あの者は途中で分かれました」


ここに来る途中、トゥラは何故か勝手に別行動に出ていた。鎮静剤を与えていたから、災いによる凶暴化の心配は無いし、獣にしては頭の良い彼のことだ…何か考えがあっての行動だろう。


分身の大蛇二匹とイブの暴走がどうにか終着した今は、やっと訪れた安息の時だったが、それも束の間の一時らしい。
次の瞬間には、目前に佇むジンの鋭い隻眼が、吹雪の奥を見据えていた。

「………お話をしている時間は無いようです」

そう言うジンの視線を辿った先には、やはり変わらぬ吹雪の光景だけだったが……こちらに近付いてくる凄まじい殺気の群れの気配が分かった。
………恐らく、この気配は災いで凶暴化した獣だろう。殺気は殺気でも、まるで悪意の無い殺気だ。純粋な、飢えによる殺気。先程この城一帯で渦巻いていた強力な魔力が、無駄に獣を引き寄せてしまったのか。


「…後にいらっしゃる陛下の手を煩わせぬためにも、先にあちらを片付けます。…蛇の本体を探すのは後回しになりそうです」

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