亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
常日頃見せるあの無表情は何処へやら。狼狽を隠しきれずにブンブンと左右に首を振る彼の勢いにつられて、リストも動揺した。
「ええっ?とんでもない?おぶるのがとんでもないの!?ただ単に奴を運ぶだけじゃねぇか!!お前は何がお気に召さないんですか!?」
「………にょ、女人を………おぶるという、その、手段、が……」
「じゃあ引きずればいいんだろ!!」
「引きずるなど、とんでもない!!」
「あーもう…!…要するに!お前がじゃじゃ馬に触りたくないだけなんだろ!!いいよ別に!本当にどうでもいいよ!!俺がやるから!!」
「………………触りたくない訳ではありません。しかし、貴方が触るというのもなんだか酷く不愉快です」
「………」
じゃあ、俺はどうすればいいのだ…と、リストは途方に暮れた。
この妙な押し問答…もしや永遠に続くのではないかとも思われたが、遠方から響き渡ってきた獣の呻き声を機に、それは杞憂に終わった。
真っ先に反応したのは、たった今まで目の前で喚いていたジンである。本当に切り替えの早い男だと思う。
こちらまで身の毛もよだつ様な凄まじい殺気を纏い、半身に闇を絡ませるや否や風の如き速さで疾走した。
擦れ違い様、小さな声で「後は頼みます」とだけ言い残し、あっという間に音も無く目の前から消え失せるジン。
…また、独りで…!
慌てて彼の背中を目で追ったが、並大抵の視力では彼の動きを捉えることは出来ない。加えて今は日も暮れた夜、ここは猛吹雪の縄張り。
次の瞬間には、ジンという男の姿も気配も、一切が無くなっていた。
(…世話が焼ける総団長だな…!)
…前総団長とは違う意味で。
やれやれと言わんばかりに溜め息を吐くと、リストは雪中に埋もれて寝息を立てているイブの頭を、靴の爪先で数回小突いた。