亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
あの、一つの争いを描いた長いとも短いとも言えなかった時間。
雪と共に荒れ狂う大蛇の咆哮。
僅かな希望をかけた人間同士の殺し合い。
とある一人の戦士との、静かな別れ。
今となっては過去の一つに過ぎない、あの限られた時間からはや数時間。もう随分と昔の様に思える乱闘の後は、しばらく静寂が占拠していたのだが………次第に、城外は騒々しさを取り戻していた。
魔力で密閉された城内は、今は外の騒音が何一つ聞こえない状態だ。故に、今外では何が起きているのか、城内にいる者でノア以外に分かる者はいない。
ノアはそっと、城の外に耳を澄ませた。神経を外界に集中させたノアの聴覚は、幾つもの遠吠えと唸り声を捉え、殺気で渦巻いていく空気の濁りを感じていた。
いつもは静かだというのに。どうしてこんな日に限って、こんなにも荒れるのだろうか。
遥か昔の戦程の比では無いにしろ、争いによってたくさんの命が落とされていっている。
それでも、空に浮かぶあの青白い月は顔色一つ変えずに平然と、これが私の役目だと言わんばかりに、地上を見下ろしている。
厚い雪雲の一部が、さぁっと、隙間を作り出す。巨大な切り込みから、青い光の柱が幾筋も下ろされる。透き通る柱は雪国を照らし、谷底にまで降り立ち、凍てついたたくさんの屍を照らし、次々にその柔らかな身で闇を切り裂いていき。
漆黒のキャンパスに、戦士の構える弓が浮かぶ。
大きな、弓張月が。
そっと、その訪れを知らせる様に。
「―――時間です。謁見の間へ、ご案内致します」
微笑を添えたノアの一言は静かな城内に響き渡り、その場にいる全員の耳に張り付いた。
いつの間にか張り詰めていた緊張からか、誰も口を開こうとしない中で、不意にユノは立ち上がった。部屋の扉の前で佇むノアに、その円らな青い瞳を真っ直ぐ向ける。
「…それは、すぐに行かないといけないのかい?」
「いいえ。期限は一応、月が暁に身を投じるまでとなっております」