亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
この一夜が明けるまでに、王を生み出せばいいらしい。この時期の夜は長い。暁の訪れまでまだまだ充分時間はあるが、先程のバリアン兵士やヨルンの襲来といった予想外のハプニングといい、何が起きるか分からない。事は、早い方が良い。
ユノは腕を組み、部屋中を一度グルリと見回して、小さく息を吐いた。
「………少し待って…って言ったら、怒るかい?」
「私は、従うのみの存在です。………構いませんよ。…では、その気になったらお声をおかけ下さい。………失礼」
…そう言うや否や、ノアは部屋の壁にゆっくりと後退し、そのまま壁を擦り抜けて姿を消した。
再び沈黙が蔓延る室内。
ユノは傍らの椅子に腰掛け、腕を組んで足元をじっと見下ろした。
瞬きを繰り返しても、そこには変わらぬ大理石の床があるだけ。そのまま口を閉ざし、微動だにしないユノの背中を、背後からそっとサリッサは見詰めていた。
背の高い椅子に腰掛けたユノは、ブラブラと床につかない両足を揺らす。大きく見開かれた瞳を数回瞬きさせた後、ユノは口を開いた。
「―――今夜、だってさ」
「………ええ」
「…僕は、今日という日を本当に…本当に待ちわびていた筈なんだけれど………本当に、不思議だよ…」
…いざその夜を迎えれば、そのあまりの実感の無さに…正直な話、拍子抜けしている自分がいた。
今夜、自分の最も望んでいたことが叶うのに。
僕の願いが、叶うのに。
夢が、叶うのに。
(………夢…?)
果たしてこれは、僕の夢だったのか。なりたいと切望していた、抱いていた、僕の夢だったのか。
…いいや、きっと……違う。
「………僕には、夢なんて無い……」
これは、夢ではない。王になることを願っていたけれど、夢なんて生易しい、可愛いらしい代物ではないのだ。
僕が王になることは、義務だ。
使命だ。
宿命だ。
………ならなければならないと思うあまり、僕は、僕の本心を忘れていた。