亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
(―――僕は、本当は、王になんてなりたくないんだ………)
…そんなもの、なりたくない。
父が、祖父が、先祖が、偉大なる王であった歴史と事実が、そしてその血縁という関係性が………生まれた時から僕を、縛り続けていて……離してくれなくて。
たくさんの人間が、僕を囲う。その血が流れていることだけで、たくさんの民の視線が、手が、賛辞が、期待が、僕を。
僕を、がんじがらめにして。
井の中の蛙の様に、屋敷から変わらぬ風景を見続けていて。
「………王族の人間も、そんな下らない事を考えるのね…なんだか意外だわ…」
部屋の隅で壁を背にして佇んでいたドールが、親子の静かな会話に何気なく口を挟んだ。
今から王になる人間。絶対の権力を前にした人間だというのに、このユノの妙に落ち着き払った態度は何だと言うのか。王族という、民にとっては神にも等しいその力をご都合主義で悪用する、自国の汚い王族しか知らないドールには、ユノは不思議な人間だった。
何を、迷う。何を躊躇う。
…ユノにとって、王とは何なのか。
「……バリアンでは…そんな最大級の名声を欲しがらない奴の方が、きっと稀だわ」
そう言って小首を傾げるドールに、ユノは乾いた嘲笑を漏らした。馬鹿馬鹿しいとでも言うかの様に、首を左右に振る。
「………君の国の王様は、王という器を玩具とでも思っているのかい?……随分と脳天気な事だね。だから馬鹿みたいに戦争、戦争って言って争い事ばかりするのか。………是非ともその阿呆そうな面を拝んでみたいよ…」
歳の近いバリアンの王子様とやらにも会ってみたいね、と言いながら、ユノは短い息を吐いた。
…やりたい事をやる。なりたい自分になる。
子供らしい子供の夢を持つことを、生まれた時から許されなかったユノには、夢というものが未知のものに思えて仕方なかった。
王になる。ならないと。
ただ、それだけ。それだけやれば、僕の義務も終わり。
それだけ。やりたい事なんて、無かった。