亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
相変わらずの読めない笑みを浮かべた口元はそのままに、ノアはその場で優雅にクルリと回り、こちらに背を向けると、長い廊下の奥に向かって音も無く歩き始めた。
サラサラと、エメラルド色の艶のある長い髪を床に引きずりながら、ノアは前へ進む。一歩歩く度に、ノアの周りにぼんやりとした明かりが宙に浮かび、闇を削っていく。
ノアの魔力で歪んでいた城内の空間が、少しずつだが、本当の姿を見せ始めているのだ。
前を歩くノアは、止まる気配も振り返る様子も無い。このまま立ち止まっていたら、なんだか置いていかれそうな気がする。ノアだけが、今は頼みの綱なのだから。
後を追う様に歩を進める二人の背後で、サリッサが恐る恐るといった様子でドールの歩みを支えてあげようとしていた。
彼女の足は傷は塞がってきたものの、まだまともに歩く事が出来ない。それでも尚、愛用の鎚を杖代わりに突いて強引に移動するドール。
その歩き辛そうな様子を見兼ねたサリッサが彼女に手を伸ばしたが……素っ気なく躱された揚げ句、軽く払われてしまった。
気を遣われるのが嫌いなのだろうか。それとも、その勝ち気な性格のためか。
…同じ様に、一旦立ち止まったレトも「…おぶろうか?」と声を掛けてみたが、一瞬その顔がほんのりと紅潮したかと思うと、睨まれた。
「…あ、照れてるのかい?…ドール、珍しく可愛いー」
「っ…う、うう…うるさいわね!…こっちを見ないでよ馬鹿!」
普段の彼女からは見られない態度を目敏く見付けるや否や、ユノはケラケラと笑って茶化した。仏頂面の彼女をからかうのは特に面白い。案の定、茶化しに慣れていないらしいドールは、真っ赤になりつつも直ぐさま鬼の形相を浮かべて喚いた。
そんな中で、二人の会話をぼんやりと聞きながらレトはドールに視線を移して首を傾げた。
「…?………………ドールは、可愛いよ?…凄く優しいもんねー」
…と、悪意も何も無い純情の塊の様な台詞をさらりと吐けば……当のドールは真っ赤になって口を閉ざし、サリッサはほほえましいものを見るかの様に後ろで笑い、ユノは呆れた目で見てきた。