亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
―――瞬間。
常時眠そうなレトの顔がサッと青ざめ、ぶわっとその目に大粒の涙を溜めたかと思うと、カタカタと小刻みに震え出した。
…うわ、何これ……天敵に怯える小動物みたいだ。
………なんて思いながら観察している内に、レトはどんどんどんどん縮こまり、無言で明後日の方向を見詰め始めている。
あ、いけない。この子泣きそう。
「…レ、レト!落ち着いてよ!何泣いてるのさ!いや、確かに泣かせる様な事は言ったけどさ………話は最後まで聞いてよ…」
必死に宥めるユノに頭を小突かれながら、レトはコクコクと何度も頷き、懐から取り出したちり紙で鼻をかんだ。
溜め息を吐きながら苦笑を浮かべるユノは、レトの背中を軽く叩いて言った。
「…ちょっと前までは、ね」
「………………前、まで……?」
半分泣き言で言うレトに、ユノは大きく頷いた。
「―――………名前で、呼んでくれる様になったね。………僕の事…」
名前で。
………いつからだったか。
今はもう、それが自然で……当たり前で…。
気付かない内に、彼を名前で呼んでいた。
「……………前はね…壁を感じていたよ。………僕の周りはお母様以外皆、僕をユノって呼んでくれないんだ。………王子って呼んでくる………だから君も、皆と同じなんだなって思っていたよ」