亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
広く間合いを取ったローアンは、サラマンダーに絡み付く鞭を辿った先の、何も無い空間に向かって叫んだ。
………途端、サラマンダーを繋いでいた鞭は突然怪鳥の首から解け、そのままヒュンッ…と吹雪を切り裂く勢いで弧を描き…。
体勢を立て直しきれていなかったサラマンダーを、目にも止まらぬ速さではたいた。
羽から腹部にかけてはたかれたサラマンダーは物凄い勢いで吹っ飛び、悲痛な叫びを上げながら、少し離れた針葉樹林の奥へと真っ逆様に落下した。
………本の数秒間の出来事だった。
宙を彷徨う鞭は上空で弧を描き………何も無い空間のとある一点に、吸い込まれる様にして消えた。
「………」
目の前で急に現れたかと思えば、怪鳥をひっぱたいてさっさと消え失せた鞭。
その後すぐに、正面に黒煙の様な靄が立ち込め………………一瞬我が目を疑ったが、そこから、見慣れぬ人間が出てきた。
……反射的に、ザイは剣を構えた。
後ろに控えるサリッサも、鞭の次に突如現れた人影を恐る恐る窺う。
警戒するザイとサリッサの前で………長い鞭を握り締めて佇む青年。
灰色の短い髪に、胴体を太い帯で締めた緑を基調とした独特の衣装。右目には眼帯をしている、まだ年若い青年だった。
吹雪の中で独特の雰囲気を醸し出す眼帯の青年は、ザイとサリッサにゆっくりと、鋭い眼光を向けてきた。
「―――………御二方、お怪我は無いですか…」
片手の指の関節をポキポキと鳴らしながら、丁寧だが無感情な声でジンは呟いた。