亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
先程の怪鳥に対してと違い、全くと言っていい程殺気の無い眼帯の青年。
しかしそれでも警戒心を解かないザイに、青年は束ねた鞭を腰の帯に差し込み、フッと目を背けた。
「………………どう思おうが……貴殿の御自由に…」
そう呟くや否や、青年の身体は突如現れた時と同様の黒い靄を纏い、次に瞬きをした直後、もう目の前にはいなかった。
青年の気配も何も無くなった後、ザイは無言でサリッサを脇に抱え込み、レト達の後を追うため走った。
………ザイは、今現在の状況が把握出来ないでいた。
襲撃してきた集団はバリアンの手の者達であって、完全な敵と見なしていいだろう。しかし……そのバリアンと自分等の間に突如割って入ってきたあの男女二人は、一体何者なのか。
年若い金髪の女の方は、今もあのバリアンの少女と対峙している。
………敵なのか、味方なのか。…その前にまず、彼等の正体が全くもって分からない。
………だが、とにかく。
(………これは……好機だ…)
バリアンの目は、こちらに向いている場合ではないのだ。
この機に乗じて今は逃げに徹するべき。
………ユノ王子の容態も気になる。
ザイは猛吹雪の中を風の様に走り抜け、大柄な身体にも関わらず所狭しと並ぶ針葉樹林の間をスルスルと通り抜けた。
フルに発揮したザイの脚力により、彼の視界はすぐさま、疾走する息子の背中を捉えた。
小さな背中は、動かぬ小さな身体を背負って走っている。
その後ろには、ちまちまと走る黒い点の様なアルバスの姿も見えた。
ザイは空いている手で甲高く短い指笛を鳴らした。