亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
この吹雪の中では容易くかき消されてしまう指笛の音だったが、その僅かな空気の振動を、レトの耳は捉えた。
…父の指笛であると分かるや否や、レトはザザザッ…と深い雪の表面を削りながら足を止め、真後ろに振り返った。
「……父さんっ…!」
「…話は後だ、王子は私が背負う。……お前は追跡に注意して後ろから来なさい」
要点だけを言い、ザイは素早くレトからユノを受け取り、大事に抱えた。
………抱えたユノが驚く程冷たく、そして軽い事に顔をしかめたが、ザイは無言で森の更なる奥へと走った。
その後に続こうとしたレトだったが………何を思ったのか、くるりと踵を返し、その場に止まった。
「……何をしている!…レト!」
独断で別行動に出た息子にザイは叫ぶが、レトは首を左右に振った。
「………すぐ…すぐに行くから………少し先に行ってて…!……何かあったら指笛を鳴らすから…!」
「……レト!」
父の声を無視し、レトは、まだぼんやりと蒸気が立ち込める舞台へと引き返して行った。
………こんな時でも、遊んで遊んでと言わんばかりにチーチー鳴いて足元を跳ね回るアルバス。
レトはその弾力のある小さな黒い雛鳥を無造作に掴み…………ザイの方へ無造作に、投げた。
チィー……と、可愛らしい鳴き声は余韻を残し、ボール同然に回転しながら、やや可哀相なアルバスは吹雪の向こうに消えた。
………生き物として扱われていない投げられ方をしたアルバスは、舞い散る雪に撫でられながらポーンと上空を飛び、致し方ない、と森の奥へ走り出したザイの元へと向かって行く。
運良くその存在に気が付いたサリッサが、それをなんとかキャッチした。