亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

身長の差とはいえ、この女から見下ろされるのは…なんとも不愉快極まりない。
何でも見通してしまう様なその澄んだ瞳が、憎らしい。腹立たしい。

屈辱的としか、言い様が無い。


視線を重なるのでさえ嫌悪感を覚えるが、見下されたままというのも絶対に嫌だ。

何をしても動かぬ鎚。この女の手から取り返そうと全体重をかけながら、見上げた。








ふと、上げた視線の先。目と鼻の先には………。












見たくもない、とつい先程思ったばかりの………透き通る、スカイブルーの瞳。
曲線を描く長い睫毛の姿がはっきりと見えるくらいに………至近距離に、女の顔はあった。

「………っ…!」

狼狽し、思わず息をのんで硬直してしまったドールに………ローアンは鼻先が触れてしまいそうなその距離を保ったまま、低い声で囁いた。






「―――…話にならん」

「―――…何をっ…!」

…瞬間、ドールは鎚を放し、マントの内に手を入れた。腰のベルトに挟んでいたナイフを掴み、目の前に佇むローアンを突き刺そうと一歩踏み出した。






………だが、突然手首に鈍い痛みが走り、掴んでいたナイフはいつの間にやら、手元から離れていた。

………一秒にも満たない僅かな時間の中。
銀の光沢を放つナイフが、足元の積雪の上にゆっくりと落下していくのを、ドールの目は半ば呆然と映していた。

鋭利なそれの先端が、白く滑らかな地面を削り、貫くかと思えた瞬間。














腹部への、強烈な痛みと衝撃。
息が止まり、意識が飛ぶ感覚。
真っ白になったかと思えば真っ暗になる視界。





それら全てが、ドールを襲い、支配した。
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