亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
反射的に近付いて来る羽音から反対側の方へ、剣を構えつつ身を翻せば………視界に飛び込んできたのは、燃え盛る炎が灯った、真っ赤な羽。
こちらを見据える澄みきった丸い瞳と、フックの様な曲線を描く鋭い嘴。
………先程、ジンが鞭で落としたサラマンダーだ。
その背には、横たわる少女の仲間と思われる青年が跨がっている。
青年は剣を構えていたが、その視線はローアンではなく、目下の少女に注がれていた。
………今なら、向かって来るこの鳥をもう二度と空を飛べない様に、自由の象徴であるその羽を両断する事が出来る。
青年諸共再び大地に落とす事も可能だ。
すぐ脇ではジンが問答無用で鳥を仕留め様としているのか、“闇溶け”独特の黒煙の様な黒い靄が視界の隅に見えた。
………だが、ローアンはその好機とも呼べる僅かな時間の最中で………。
………剣の構えを、解いた。
「―――…動くな、ジン」
サラマンダーに向かって、黒い靄から今にも放たれそうだった鋭い鞭の切っ先が、その唐突なローアンの呟きの直後、空中でピタリと静止した。
―――…それと同時に、ローアンのすぐ前を、熱気を放つ赤い風が通り過ぎて行った。
擦れ違い様、鳥に跨がっていた青年と一瞬目が合ったがすぐ逸らされ、彼は伸ばした腕で横たわる少女をかっさらって行った。
低空飛行から一気に上空へと上昇するサラマンダー。
その燃える赤い羽も、青年の背中も、脇に抱えられた幼い少女の姿も………あっという間に、吹雪の向こうへと消え去った。