亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
サラマンダーの赤い影が完全に見えなくなった後も、ローアンは上空をじっと見上げていた。
黄金色の髪を、細かな雪が撫でていく。
「………よろしかったのですか…」
“闇溶け”の気配がしたかと思えば、背後から感情の無い声が投げ掛けられた。
振り向けば、そこには鞭を腰の帯に挟むジンの姿があった。
「………いい。…慣れぬ土地での深追いは危うい。……だがその前に、深追いする気も無い…」
「………ですが…」
「くどいぞ、ジン。あまりくどいとイブに言い付けるぞ」
「………」
無表情、無感情、無口…な割りには非常に好戦的なジン。
………だが、イブが絡むと彼は異常に困惑し、大人しくなる。
……もっとも、イブ本人は自分がジンの弱点になっている事など全く知らない様だが。
それはそれで面白いから、ローアンは何も言わない。
冷や汗を流し、黙り込んでしまったジンを傍目に、ローアンは剣を“闇溶け”で消し、せっせとマントを羽織り直す。
「………とにかく……バリアンは、他に敵がいる事がこれではっきりしただろうな。………我々がフェンネルの者だという事までは、分からないだろうが…」
漆黒のフードを被り、ローアンは懐から束ねた地図を取ろうとした。
………しかし、マントの内に差し込まれた手は………ピタリと、静止した。
………………。
「………動くな、と言っただろう………ジン」
傍らで再び鞭を掴もうとしていたジンに、ローアンは苦笑混じりに呟いた。
微動だにしないローアンは溜め息を吐きながら……。
…………何処からか注がれる視線を、感じていた。