亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
敵の襲撃は、これ一度きりではないだろう。
…きっと、まだまだある筈だ。
まだまだ………また…ユノが…。
(………………嫌…………嫌だ…)
………無意識に、レトの手は弓を掴んでいた。
雪に埋もれていた青い弓身をゆっくりと立て、左手は握りを、右手の指は、弦を。
また…ユノが酷い目にあうのか。
また……助けられないかもしれない。今回は退く事が出来たが…次はどうだろうか。
………いつでも危険がいっぱい。そこら中、敵だらけ。敵だらけ。
誰が敵で、誰が味方か。………じっと見ていても、分からない。分かった時には、もう遅いかもしれない。
いつ、誰が邪魔をするのか分からないのならば。
ならば……いっその事。
(………先手を…)
キリリッ…と、半月の形に引かれた弓の弦が、甲高く鳴いた。
大木の幹を、吹雪を、積雪を掻き分けたレトの真っ直ぐな視線の先の、先。
漆黒のマントに身を包んだ、黄金色の髪を揺らめかせる女。
ほっそりとしたその的目掛けて………レトは弓を構えた。
左右に緩やかなカーブを描いて伸びた弓の真ん中に、煌めく氷の結晶が集まり………青光りする鋭い矢が現れた。
右の頬に触れるそれは、とても冷たい。
………完全に引き絞り、いつ離れてもおかしくない体勢のまま、レトは静止した。
矢尻の先に、女がいる。
今、全身の力を左右に開けば………この矢は真っ直ぐ、彼女に向かう。
決して、外さない。
………外せない。
深く、長い呼吸を、何度も繰り返す。
標的の急所は、頭。あの黄金色に向かって。
一瞬で。