亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「―――ガアァァァ!!」
「―――っ…!?」
低い咆哮と共に震えるレトの視界は突如、漆黒と、鋭い牙が並ぶ大きく開かれた赤い口に覆われた。
湧いて出てきた、という言葉通り、それは何の気配も無く突如現れた。
フッと立ち込めた黒い靄から現れたのは、見た事も無い獣。
例えるならば、その姿は真っ黒な大きな猫。
………驚きのあまり、弓の構えは崩れ、レトは矢を離してしまった。
行き先が狂った氷の矢はあらぬ方向へ向かい、吹雪の彼方へと行方を眩ました。
…牙をむき出しにした獣は目の前に下り立ち、低い唸り声を漏らす。
ハッとして前に向き直れば、微笑を浮かべる金髪の女と、視線がぶつかった。
同様にこちらを見る眼帯の男が、腰の帯に差し込んでいる鞭を掴み、一歩……前に出て来た。
「………」
…ここは一端、退くしかない。
金髪の女と視線を重ねたまま、レトは弓を下ろした。
収縮した弓をマントの内に収め、踵を返すや否や、一気に地を蹴ってその場から退散した。
大木の幹に足を掛け、枝から枝へと跳び移る。
追って来る気配は無い。
しかしレトは一度も振り向かずに、横薙ぎに吹き渡る猛吹雪を掻き分けていった。
………早く、父さんと合流しよう。
ユノも…大丈夫だろうか。
…早く、行かないと。
(………)
どうしよう。
まだ、身体が震えている。
あの赤い瞳が、目に焼き付いて………離れない。
震えが、止まらない。