亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「………再会を喜び合うのは、ここまでとしよう。私も、暇ではない。……早速本題に移らせてもらうが、マナよ。…そなたが持ってきたこの文は……………誰からのものだ。……字を知らぬそなたが書ける筈がないからな…」
…悪気があって言った訳ではないのだが、文字が書けない筈という台詞が些か不愉快だったのか、マナは微かに眉をひそめた。
「…おっしゃる通り…これは私がしたためた文ではありません。………ちなみにこの文を読んで頂きたいのは神官様では非ず………『長老』に、御座います」
「………何?」
今度は神官が眉をひそめる番だった。
―――『長老』、という重々しい単語を聞いた途端、神官は反射的に背後へ視線を移した。
腰掛ける神官の背後には、薄暗いが………よく見ると、奥へと空間が広がっている。しかし、奥の方は簾の様に天井から下げられた布によって見ることは出来ない。
暗闇漂う空間だけがそこにある様だが……あの見えぬ先に、人気を感じる。
微かに感じるというレベルではない。はっきりと感じ取れないのは……。
その存在感があまりにも大きすぎる故、である。
「………長老に宛てて…とは………珍しき事だ。………して…どの者からの文だ…?」
しわだらけの瞼を一度閉じ、再度マナに視線を移して神官は低い声音で言った。
国の頂点に立つ王族とは別に、このデイファレトの狩人全ての上に立つ孤高の覇者………『長老』。
どんな人物なのか、普段何処にいるのか、『長老』という地位以外全てにおいて詳細不明の存在。
その『長老』と唯一行動を共にしているのが、神官で、王族に仕える魔の者の様な存在だ。
魔の者とはまた違う特殊な術を使い、長老の右腕となって付き従うのを務めとする、長老同様に存在自体も特殊で不可解な者である。