幕末異聞―弐―

五人の残した言葉の意味もわからず、答えも聞けずじまいで何もなくなった部屋に取り残された楓は部屋の中央で胡坐をかいていた。
既に日当たりの良い部屋の障子は幻想的な橙色に染まって、楓を橙一色に染めていた。


「あ…もう夕方か」


考えているうちに、時を忘れていた楓は、自分の影が長くなっていることでようやく日が暮れかけている事に気が付いた。

「飯…」


クウと腹の虫が動き回っている音を聞き、刀を右手に立ち上がる楓。



力がなければ到底生き伸びることはできなかった。力がなければここにくることも無かった。
一人で生きるには力が必要だった。
生きたいと強く願ったから死に物狂いで力を手に入れた。


――力がある者が生き残るのは必然


それが全てで、感情なんて何の役にも立たない。そう思っていたら、次々と不思議なことを言う奴らが現れた。
彼らは守りたいものがあるから戦うのだと言う。

何を言っている?戦いは自分が生きるために相手を倒すものだろう?
誰かを守るなんてそんな恰好つける余裕なんてありはしない。
生きたければ自分で力をつければいい。守られようなんて浅薄な考えをする者は図らずとも消えていく。
それが自然淘汰というものだ。



――ガラッ



広間に向かう間も考えを廻らせていた楓が、木戸を開けて空いている膳を探す。
その間だけでも、除隊の噂をどこからか聞きつけた隊士たちが痛いほどの視線を楓に向けていた。


「空いているぞ」


視線のせいもあって、なかなか空いている膳を見つけられない楓に声を掛けたのは斎藤だった。誰も手を付けていない自分の隣の膳をトンっと叩いて呼んでいる。

「ああ、すまん」

急いで木戸を閉め、多くの視線を背に感じながら楓は早足で斎藤の隣に座った。



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