幕末異聞―弐―
屯所で食べる最後の夕食は質素なものだった。
鰺の干物に青菜のおひたし、味噌汁、漬物、雑穀米。
斎藤がいなくなってからは黙々と目の前の物を平らげた。
荷物はまとめたし、隊服も洗った。身の回りの事はすべて整理したから、あとやることと言えば一つ。
「ごちそうさん」
これをやらなければうちはここを出れない。気が済まないのだ。
席を立つとまた視線が向けられた。
もうそんなことは気にならなかった。
うちにはたった一つの目的があるから。
廊下に出て右手に持った愛刀に額をつけた。
「さあ、思いっきり暴れてやれ」
鞘は月明かりに照らされ、嬉しそうにぬらりと妖しい光を放った。
中庭を囲むような構造の縁側を気配を消して歩く。月の光を頼りに足場を確認しながら進む。
いるとしたらあそこだろう。確信を持って目的地を目指す。
微かな人の気配を乗せた風が頬に触れた。
目を凝らせば、確かな人影。
ほら、思った通りだ。
「ふふ。きっと恨んでるだろうな」
真後ろにいるというのに、気配に気付く様子もなく独り言を洩らす。
どうやら、こいつはこいつでかなり悩んでいたようだ。でもそんなの関係ない。
許せないのだ。
「ああ。殺してやりたいくらい恨んでる」
逃げ腰のこいつが。
「おい。刀持って来い」
この沖田総司が。