月の恋
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「おい鬼壟…もう少し優しく置けないのか」
「…うるせぇー」
鬼壟に術をかけられてまた眠りについた生綉姫を鬼壟が抱え彼女がいた部屋の寝室へと運ぶ。
ーーーギシ
蒔騎は生綉姫が寝かされてるベットに歩み寄りゆっくり腰がける。
そんな蒔騎に
「…話せよ…14年前のこと」
その声は届く…少しの不安と冷たさをふくんで…
蒔騎は目線を生綉姫から近くの壁に寄り掛かる鬼壟へと向ける
カーテンを閉めきってる薄暗い部屋の中は周りから切り離されたかのように静かにゆっくりと時がたっていく。
蒔騎は思い出すかのようにゆっくりと語り始めた。
「…14年前のあの時…燃え盛る炎の中、姫様を連れて人間界へ逃げた」
「………」
「その時一緒に居たのが滝(たき)と亜紀子だ」
「なぜその事を教えなかった!!」
「まぁ…聞け……目を覚ました姫様には……記憶が無かったんだ…綺麗にな…」
「っ!」
鬼壟が小さく息を呑むのが分かった。
蒔騎は一つ息をついて語り始める
あの日を思い出しながら……
「姫様を見つけた時、姫様は既に気を失っていた……気を失う前に何かショックな事があったのかどうして記憶を無くしてしまったのかは分からない。ただ…目を覚ました姫様は誰一人として何も覚えて無かったんだ…」
「………」
「…だがな……俺は正直、安心したんだ」
「………」
蒔騎は少し俯き自嘲的な笑みを浮かべる。
「あんな悲しいこと、まだたった3歳の子には辛すぎる…だからこのまま忘れて人間として生きてくれれば良かった…笑っていてくれさえすればそれだけで良かったんだ……だけど」
蒔騎はいったんそこで話を切る
その目は冷たく鋭を含み始めた
そして形のいい唇が動く……