幕末異聞ー参ー
――九月十二日
話を詰めた桂と坂本はいよいよ薩摩に向けて文を送った。
「会合ハ五月二十一日下関ニテ行イタシとのことじゃ西郷さん」
坂本と入れ替わる形で薩摩入りしていた中岡慎太郎が西郷に坂本から届いた文を読み聞かせた。
「ついに時が来もしたな」
西郷は目を閉じて呟いた。
「坂本どんに了解したと文を」
閉じていた目をかっと見開き、西郷は中岡に向けて一つ首をたてに降った。
その反応を見た中岡は嬉々として小筆と硯を用意して早速坂本と桂に返事の文を書き始めた。
この時、二人はもう一通の文が薩摩藩邸に届こうとしていることを知るよしもなかった。
「よし!これであとは二十一日に下関に行くだけじゃ!ようやっと同盟を結べるぜよ」
カランと文を書き終えた中岡が上機嫌で西郷の厳つい手を握る。
「ああ。そうですな」
しかし西郷の返事は上の空だった。
中岡や坂本、長州は元々反幕府を表明していたからよいが、薩摩は事情が違う。
いってみれば今まで使えてきた幕府に反旗を翻すのだ。
今までも薩摩の態度ははっきりしないなど幕府に散々言われてきた薩摩だ。
長州と同盟を組むとなれば今まで以上に幕府との関係に気を使い、同盟を結ぶことに反対をしている者たちを押さえ込まなくてはならない。
それは西郷にとって憂鬱以外のなにものでもなかった。