幕末異聞ー参ー
二人が乗船したのは坂本が薩摩に来るのに乗ってきた船と同じ胡蝶丸。
定刻通り無事出港した船は一路下関を目指す。
「西郷さん。下関へは一日ほどかかります。会合の前に最後の打ち合わせをせんがか?」
「・・・」
「西郷さん?」
「・・・中岡どん」
揺れる船上で西郷は眉間に深く皺を刻んでいた。
「実は先刻、大久保どんから文が届いた。大坂に・・・来るようにとの内容です」
「な・・・なんじゃと?!」
西郷のいう大久保とは、薩摩藩士·大久保利通のことだった。
坂本や桂ほど表立った倒幕活動はしていないが、彼も現幕府に不満を持つ志士の一人だ。
「薩摩の人間の意見も聞かずに一人で動くなと。灸をすえられてしまいもした」
「だだ・・・だからって今じゃなくとも・・・」
中岡は混乱しながらも西郷を止めにかかった。
「中岡どん。悪いが、佐賀で下船していただきもす」
いつの間にか西郷の回りには数人の侍者がついて、今に刀を抜く勢いであった。
どうやら嫌とは言わせない覚悟らしい。
「・・・西郷さん。見損なったぜよ」
「・・・なんとでも言えばいい。おいは大坂へ行く」
西郷の決意はその後も揺らぐことはなかった。