幕末異聞ー参ー
――九月二十一日
ついに約束の日がやってきた。
「どうなってるんだ!?」
朝から響いたのは話し合いの声ではなく、桂の怒りの声だった。
「桂さん落ち着くんじゃ!」
坂本は必死で桂の袴を引っ張り帰ろうとするのを制止していた。
「なぜ刻限になっても薩摩は来ない!?」
「何か、何か事情があるんじゃ!もうちくっと待つぜよ!」
「待っても来んぜよ」
緊迫した空気のなかに一つ抑揚のない落胆した言葉が落とされた。
「…慎太郎」
「西郷は来ないと言うとるんじゃ」
投げ槍に放たれた言葉は長州藩にも坂本にも衝撃を与えた。
「…そりゃどういうことじゃ?」
桂の視線が背中に刺さるのをビリビリと感じながら坂本は中岡に詳細を尋ねた。
「どういうことかわしが知りたいくらいじゃ!薩摩藩士の大久保に呼ばれて勝手に大坂にいったぜよ!!」
「おのれ薩摩め!我らを裏切ったな!!」
「薩摩藩邸に討ち入りだ!」
「皆!刀を持てい!!」
中岡の言葉を聞いた薩摩藩士たちは口々に叫び怒りを顕にする。