( 新撰組 * 恋情録 )

 「 ‥おい? お前‥何で泣いてんだ‥? 」

 ( え‥? )

 気付けば、頬を涙が伝っていた。
 本当に泣くつもりなんか、
 これっぽっちも無かったのに。

 後から後から、
 大粒の涙が零れて止まらない。

 「 ふ‥ぇ‥っ 」

 「 ちょ、えっ‥おい! 」

 「 あらら、土方さんが泣かせた 」

 「 ば‥っ 何で俺なんだよ! 」

 「 副長。言い訳をしている場合では
  無いかと。早急に対処を 」

 「 斎藤、てめぇまで‥! 」

 泣いているというのに、
 三人のやりとりが何だかおかしくて
 少し笑ってしまった。

 「「「 ‥あ 」」」

 「 ‥な、何だよ。泣いたり
       笑ったり、変な女だな‥ 」

 憎まれ口を叩きつつも、
 土方歳三の目には
 安心の色が浮かんでいる。

 「 ごめんなさい、泣くつもりは
         なかったんだけど‥ 」

 あはは、と力無く笑ってみせると
 頭にゆっくりと無骨な手が伸びてきた。

 「 ‥涙に免じて、信じてやるよ 」

 土方歳三は、鬼副長。

 平成に伝わる彼の武勇伝は
 あたしなんかが知っている限りでも
 「 鬼 」 と呼ばれるに相応しい。

 だけど今、あたしの頭を撫でて
 照れたようにそっぽを向いている彼は
 とても鬼に見えない。

 ( ほんとは、優しいのかな‥ )

 もっと土方歳三を、新撰組を知りたい。
 あたしの胸には、そんな思いが
 芽生え始めていた―‥
< 11 / 117 >

この作品をシェア

pagetop