( 新撰組 * 恋情録 )
「 ‥おい? お前‥何で泣いてんだ‥? 」
( え‥? )
気付けば、頬を涙が伝っていた。
本当に泣くつもりなんか、
これっぽっちも無かったのに。
後から後から、
大粒の涙が零れて止まらない。
「 ふ‥ぇ‥っ 」
「 ちょ、えっ‥おい! 」
「 あらら、土方さんが泣かせた 」
「 ば‥っ 何で俺なんだよ! 」
「 副長。言い訳をしている場合では
無いかと。早急に対処を 」
「 斎藤、てめぇまで‥! 」
泣いているというのに、
三人のやりとりが何だかおかしくて
少し笑ってしまった。
「「「 ‥あ 」」」
「 ‥な、何だよ。泣いたり
笑ったり、変な女だな‥ 」
憎まれ口を叩きつつも、
土方歳三の目には
安心の色が浮かんでいる。
「 ごめんなさい、泣くつもりは
なかったんだけど‥ 」
あはは、と力無く笑ってみせると
頭にゆっくりと無骨な手が伸びてきた。
「 ‥涙に免じて、信じてやるよ 」
土方歳三は、鬼副長。
平成に伝わる彼の武勇伝は
あたしなんかが知っている限りでも
「 鬼 」 と呼ばれるに相応しい。
だけど今、あたしの頭を撫でて
照れたようにそっぽを向いている彼は
とても鬼に見えない。
( ほんとは、優しいのかな‥ )
もっと土方歳三を、新撰組を知りたい。
あたしの胸には、そんな思いが
芽生え始めていた―‥