⁂ダイヤモンド⁂


仕事が終わり、さっさと更衣室に戻ると、そこにはまだ誰もいなくて着替える前にポーチからさっき貰った5枚の名刺を取り出し座り込んだ。



1番初めに、店長に拾われてこの店に入った時に、あたしに用意してくれたまっ白い名刺。


「今日着いた客には、みんな渡しておくんだ」


そうあの時店長に言われたが、まだどんなことを書いていいのか分からず、ただ"今日はありがとうございました”それだけを書いて電話番号もメールアドレスも書かずに渡していた。


その名刺が秋山さんの手元へ渡り、今はこうしてあたしの元に戻ってきている。


メッセージの最後に書かれた“未来”という名前は、あの時のあたしには少しだけ書くことを躊躇させていた。


「未来か、いい名前だな」


そう笑いながら受け取った秋山さんに、あたしは笑うことさえもしなかったことをよく覚えている。なんせ一人目に着いたお客さんだったから。


2枚目の名刺はあたしが作る時にデザインを選んだ。


1枚目の何もデザインが入っていなかった真っ白い名刺とは正反対の真っ黒い名刺。


その中に、金の綺麗な蝶々と名前と携帯番号とアドレスが書いてある。



「前みたいにメッセージ書いて」そう言いながら渡した名刺を戻されると、何を書いていいのか名刺を見つめていた。


“来てくれてありがとう”


その日、店で1年目を祝って貰ったあたしは、店に来てくれた秋山さんにそう書いて渡した。


「金の蝶々は未来みたいだな」なんて言いながらメッセージを見ながら笑っていた秋山さんは、

「また、作り直したらちょうだいね」と名刺を軽く上にあげるとスーツの内ポケットに入れていた。

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