ご主人様はお医者様
先生がそういった所でタクシーはマンションの前に停まった。
支払いを済ませると、ドアが開く。
先生は先に降りて、私にこう言った。
「ハル、一緒に降りてくれるね?」
でも……、私は動けなかった。
「おいで――…ハル」
グイッと引き寄せられた腕を、私はとっさに振り払った。
「ハル?」
「ごめんなさい、先生。
私は先生の傍にいるべきじゃないんです。先生はふさわしい人と一緒になるべきなんです」
森先生は言っていた。
『高木先生のためには、さくらと結婚するべきだ』って。
荒木先生も、教授の娘と婚約するって知ってあんなに喜んでいた。
それってきっと……、
「先生は大学に戻って教授になるべき人なんだと思います。
だから、私はふさわしくない。
先生の為に何もしてあげらせません。もう……私に構わないで下さい」
私は、ふさわしくない――
そういうことなんだと思う。