月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
「入道崎に車で行ったって言っただろ? それ、父さんと行った記憶なんだ」

「そうなんだ」

 冬海がまだ幼い頃に亡くなった両親。

「母さんが俺を産んで死んで、父さん残されて寂しかったんだろうと思う」

 酒浸りになって、っていうのは聞いた。冬海が産まれてすぐ自分の妻を亡くすって、強烈な出来事だもんな……。

「もとから酒あんまり飲めないのに、寂しくて飲んでたみたい。で、車で行ったっつーのは、父さん体壊す前の話な。俺、いくつだったんだろう」

 薄い記憶の中の、冬海のお父さん。シルエットだけであたしの中に浮かんだ。

「母さんの顔も覚えてないし、写真でしか見たこと無いのに、父さんが連れてってくれた入道崎のことだけ覚えてる。死んだことも覚えてねーのに」

「2歳とか3歳とかなのかな」

「多分ね。まだ純粋な頃」

 ハハッと冬海は笑った。幼い冬海と、冬海のお父さん。
 晴れた空と、広がった木々と畑、田んぼの風景。そこを走る電車。車内に思い描いたおばあちゃんと冬海。それがもうちょっと幼い冬海とお父さんに変わる。乗っているのは電車じゃなく、車。

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