月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
 産まれた土地、行った場所。それを辿ることも嬉しかったし幸せだった。冬海は秋田から宮城に引っ越して、あたし達は出逢った。学校の、椿の下で。

 ぼたりと落ちる前の椿で良かった。あの日から、あの色の花はあたしの心に咲いたままで、何があっても落ちなかった。

 ちゃんと咲いてるよ。花は落ちなかったよ。色々あったし、でもあたし達はまだ始まったばかりだ。

「思い出だね」

 入道崎、そう言おうとして横を見ると、冬海は目を閉じていた。疲れてるよね。膝の上に乗って揺れてる冬海の手を、起こさないようにそっと握って、窓の外に目をやる。

 電車は防風林の中を駆け抜ける。冬の厳しい風雪に晒される大地。そして海。
 握った冬海の手は温かい。臆病の心に負けて、壁に怯んで、この手を放さなくて良かった。これからだって離したくはない。

 手の温かさと電車の音。駅に停車して、そして走り出す。乗客が降りては、また新しく乗り込んでくる。それを何度か繰り返すと、次は男鹿駅だとアナウンスが入った。

「……冬海、冬海」

 握ったままだった手を揺すった。あたしの肩に頭をもたれて、冬海はぐっすりと眠っているようだったから、起こすのが少し可愛そうだったけど、でも降りなくちゃ。

「んー……」

 起きた。肩の重さが無くなる。目をこすり「着いた?」ってかすれた声で聞かれた。

「次だって。がっちり寝てたねー」

「ごめん、重かっただろ」


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