月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
 ドアが開き、乗客が降りてくる。

 あたしは、向いの電車に冬海が乗り込むのを見て、自分も電車に乗り込み、反対側のドアに貼り付いた。

 ラッシュが近くて混み始める時間帯。乗客を掻き分けるようにして。


 向かいの電車のドア、でも本当に目の前に冬海が居た。

 あたしと同じようにドアの所に立っていた。


 耳に当てていた携帯を閉じて、冬海は窓に手を当てて微笑む。 

 あたしも携帯を閉じ、手を振った。


「ドアが閉まります」


 アナウンスの後、すぐにドアが閉まった。

 そしてゆっくり動き出す。それは冬海の乗った電車もそう。


 逆方向へ走る電車。

 あたしは窓に顔を付けて冬海の乗る電車を見送った。冬海もこっちを見て、小さく手を振っていた。



 見えなくなっても、あたしはドアから離れず、携帯をぎゅっと握ったままで流れる景色を見ていた。


 さっき見たばかりの、冬海の笑顔を思い出しながら。





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