駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
矢央にとって大切な人を二人も失ったショックから立ち直れないのかとも思ったが、それとは違うことで悩んでいるように感じた。
膝の上に置かれた手が拳を作り、ギュッと握り締める着物に皺が寄る。
「熊木さんが言ってたこと…」
消え入りそうな程に小さく発せられた声に沖田は首を傾げた。
「もしも私と出会ったことで、出会うはずの人と出会わなくなったらって…」
「…ああ、何やらそんなこと言ってましたね?」
だが沖田には、それがどうしたと言った感じのようで、もう一度空へと視線を向けた。
「矢央さんは後悔していないのでしょう?この時代に残ったことも、私達と共に歩むことも」
「はいっ!それは後悔してません…」
「だったら、もう考えるのは止しなさい。矢央さんはこの時代で私達と生きる道を自ら選んだ。
未来で私達がどのように語られているか、私達個人個人がどんな人生を歩み、誰とどうすごした…そんなことこれから未来へ歩いて行く私達にはどうでもいいことですよ」
未来でそれが真実だと語られている全てが、本当に真実とは限らないのだと沖田は思う。
幾通りの道があり、それを選ぶのは己自身であって他人が決めるものでもない。
「私達は、こうして出会っている。それが全てであって、目に見えない人に思い悩む必要なんてないんですよ」
「総司さん…」
「私は、矢央さんに出会えて良かったと思ってますしね。他の誰か、なんて興味すらない」
今、目に見えているものが大切だ。
困惑している矢央に視線を戻し穏やかに微笑む沖田。
そして、真っ直ぐ見つめ口を開いた。