駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
「俺は、お前が好きだ」
それは本当に小さく耳元で囁かれた。
直ぐ傍じゃなかったら、きっと聞き逃してしまうくらいに小さな声は、永倉がその言葉を告げるのを最後まで躊躇っていたせいだろう。
大切な仲間を失った今の矢央の心に付け入るみたいで、困らせてしまうのではと。
その証拠に矢央の瞳は戸惑いに揺れていた。
しかしその頬は赤く染まっていて、潤んでいる瞳で永倉を見上げる。
「…それは、仲間…としてですか?」
……ンな訳ねぇだろ。
「違う。お前を一人の女として好きなんだ」
大きく見開かれた双眸に吸い込まれそうだ。
想いを告げる前は躊躇いもなく抱きしめることができたのに、告げてしまうとどうしてか意識しているのか簡単に抱きしめることができず、永倉の腕は矢央を手放した。
それに寂しいと感じた。
「……私、私は…」
伝えたい想いがある。
ずっと、いつからなのかハッキリしないけど、確かに芽生えたこの気持ち。
永倉に伝えたい。
だけど、意外と冷静な頭は伝えてどうするのだと訴えてきた。
“貴女と出逢ったことで出逢うはずの者が出逢えない”
熊木の言葉がグルグルと回る。
離れて行く永倉の袖をギュッと掴んでしまったのは、言えないこのもどかしさを知ってほしいからかもしれない。