駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
たった一言告げることが、こんなに難しいことだったのかと痛感する。
沖田や藤堂は、どのように決意して想いを告げてくれたのだろうかと。
「今すぐ返事が聞きたいわけじゃねぇから」
意地悪でもない、怒ってもいない、今まであまり聞いたことがない優しい語り方。
矢央が困惑しているのを分かっているのだろう、永倉は見せたことがないような笑みを浮かべ、優しく頭を撫でてくれた。
ほわっと胸が熱くなって、頬も熱を持ち、更に瞳が潤んでしまう。
………好きって、こんな気持ちなんだ。
切なくて、でも温かくて、こそばい感じ。
「ただ伝えておきたくてな。俺にだって、いつ何があるか分からねぇから、そん時後悔しねぇようにってだけだ。お前を困らせるつもりはねぇ」
なんだろう。さっきから聞いていれば、永倉の発言は全て矢央を突き放すように聞こえてならない。
守ってやると言いながら、好きだと言いながら、もっと肝心な事を言ってもらえない。
「永倉さん…私は、私だって…そのっ…」
「ん?」
肝心なことが言えないのは自分も同じだった。
大人の余裕なのか、キョロキョロと視線をさまよわせ口をパクパクさせる矢央の頭を撫でながら待っている永倉を少し恨めしく思う。
……なんか、永倉さん相手だと調子狂う。