駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
「ねえ、土方さん」
「あ?」
「もう誰もいなくなったり…しないよね?」
「………」
急にしんみりとした雰囲気になり、矢央の頭を掴んでいた手はそのままワシャワシャと掻き回した。
それでも矢央の表情は晴れぬままで、土方はハアと盛大な溜息を漏らす。
「そうならねぇために、俺達は頑張るんだろ」
これから今までにない大きな戦が始まるだろうと予想している。
だから、きっと多くの仲間が傷付くだろうことも予想がついた。
しかしそれでも願う。
誰一人失いたくないのだと。
そのためならば睡眠時間を削ろうが体力が底をつこうが、息がある限り足掻いてやろうと。
「そうですよね…。うん、私も頑張ります!」
弱々しくだが漸く笑った矢央を見て、溜まっていた疲れも吹き飛ぶ。
女子の笑顔程力になるものはないようだ、とまた頭を荒く撫でた。
「もうっ髪グチャグチャじゃないですか!土方さんの馬鹿っすけこまし!」
「馬鹿でもなけりゃ、すけこましでもねえっ」
「それより私ちょっと用事を思い出したので少し抜けてもいいですか?」
周りを見れば、まだ殆ど手付かずの荷物で溢れかえっていた。
土方が用とは何だと問うよりも早く立ち上がった矢央の腕の中には、未だ“豊玉発句集”が大切そうに抱き締められていて、アワアワと慌てだす土方。
「矢央っそれをどうするつもりだ?」
障子に手を当て出かけた身体を部屋へと戻した矢央は満面の笑みを浮かべていて、ああもうこれは絶対に良からぬことを考えているに違いないと思う。
「これを見れば総司さんも元気が出ると思うんですよ!」
「やはりかっ!てめっ…待てこらぁっ!!」
「待ちません!ちょっとだけ借りるだけですってば!!」
「それが駄目だっつってんだろぉおがぁあっ!!」