駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
後に聞いた話、近藤は御陵衛士の残党に軍議の帰り伏見街道の墨染という場所で撃たれたらしい。
右肩を負傷し、その傷は深く二度と刀を握れないだろうとのことだった。
武士になりたいと夢を描き此処までのし上がってきた近藤にとって、それはどんなに辛いことなのか想像すらつかない。
そして常に近藤のため新選組のために力を使ってきた土方や、子供のように純粋に近藤について来た沖田の気持ちを考えても胸が痛かった。
暴れるだけ暴れた沖田は、そのまま気を失って矢央が部屋に訪れてから夜更けになった今でもその瞼は綴じられたままだ。
時折譫言で近藤の名を呼ぶのが痛々しい。
沖田にとって近藤は兄のような親のような存在で、新選組とか関係なく近藤が傷を負えば沖田もまた深く傷付くのだろう。
乱れた髪を撫でて直していると、静かに障子が開き土方だろうかと振り返るとそこにいたのは永倉だった。
「総司は大丈夫か?」
「今は寝てるので何とも…」
「そうか。近藤さん、命は別状ねえってよ」
「本当ですか!?よ、良かった…」
本当に良かった。
この時代に来てから近藤のおかげで新選組に身を置くことができ、色々問題があって近藤との距離の取り方が分からなくなったことあったが、
それでもやはり近藤がいなければ、こうして矢央は今も健康で生きていなかっただろう。
感謝してもしきれない恩人の一人の近藤の命があって本当に安堵した。
「矢央お前、飯食ってねえだろ?」
「あ、はい…でも、あまり食欲もないし」
こんな状況では食べる気になれない。
「そう言うと思ったけどな、食わねえと身体が持たねえからよ、これ食え」
やっと部屋に入ってきた永倉が差し出したのはおむすび。
じっとそれを見ていると「なんだよ?」と問われる。