駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
「これ永倉さんが握ってくれたんですか?」
「まあな」
またじっと見詰める。
少し歪な形のおむすびだった。
そういえば矢央がこの時代にやってきた時(壬生浪士組だった頃)、夜中にお腹がすいて寝られずにいたら永倉が食べさせてくれたのもおむすびだった。
あの夜、初めて永倉と会話を交わしたんだ。
「ふふ…じゃあ、いただきます」
「なに笑ってんだよ」
思い出し笑いに永倉は怪訝そうに眉を寄せた。
「永倉さんと初めて話したのも、こうしておむすび食べさせてくれたなあって思い出したんです」
一口口に入れると塩の味が広がった。
「…そう言えばそうだったな。でもあれは、総司が用意したんだぞ」
もぐもぐと口を動かしながら、眠ったままの沖田に視線をやる。
そして永倉にも視線をやった。
ーーーそっか、そうだった。
最初から総司さんや永倉さんが、こうしてさりげない優しさをくれてたんだよね。
初めて目が覚めて訳の分からない矢央に優しく語りかけてくれたのは沖田。
不安と空腹で寝れない矢央に初めて安心感を与えてくれたのは永倉。
そして今は亡き藤堂は、矢央か初めて本当に心を許せた友人だ。
二人を交互に見て、うっすらと視界が歪んでいく。
すると、そっと頬を撫でたのは永倉の手だった。
「なんで泣くんだよ」
「思い出して…永倉さんや、総司さん平助さんが…此処にきて私に初めてくれた人達だったんだって…なんかっ…キュッて苦しくなっちゃいました」
へへっと、泣き笑いする矢央の身体はグイッと引っ張られたかと思えば、永倉の腕の中にいた。