駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
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土方の嫌な予感は当たった。
最近またしても内部が荒れていることに、イライラが隠せないのか先程から貧乏揺すりが酷い。
「山南さん、あんたまで島原に入り浸り朝帰りたぁどう言うことだ?」
早朝の屯所裏門にて山南の帰宅を出迎えた土方は、朝日を浴びながら似つかわしい睨みを利かせた。
土方が入り口を塞いでいるため中に入ることが出来なくなった山南は、小さく吐息を吐き朝日に目を向ける。
「…つい眠ってしまってね」
「…あんたがそんなんじゃ示しがつかねぇことくらいわかんだろ」
「それは永倉くん達のことかな?」
山南が土方に視線を合わせようとすれば、今度は土方が視線を反らす。
爽やかな朝とは言えない。
この二人を取り巻く空気は、雪すら溶かすのではないかと思うほど熱がこもって重みがある。
「伊東の野郎は何を考えてやがる?」
「なぜ私に?」
「あんた流派が同じっつって、ちょくちょく話してんじゃねぇか」
「ふっ…。 だから何だと言うんだい? ただの世間話をしているだけだよ」
クイッと眼鏡を上げる仕草に苛立ちが募る。
山南を信用していないわけではない。 否、信用しているからこそ何かあるのではと探ってしまうのだ。
この真面目な男が最近やたらと朝帰りが多く、剣の稽古すらしなくなってしまったことが気になって仕方ない。
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