執事と共に聖夜を。
「お嬢様、こちらですか」


部屋のドアを開いたのは春樹だった。

恵理夜は、まだピアノを弾き続けていた。


「春樹」


恵理夜は、ピアノを弾く手を止めた。


「お邪魔して申し訳ありません」

「ううん、いいの」


部屋に入った春樹は、怪訝そうな顔をした。


「……寒くないですか?」


恵理夜は、首を傾げた。


「そう?」


けれど、言われてみれば入ってきた祖父はコートを脱がなかった。


「お部屋のヒーターを入れておいたのですが、まだ練習されていきますか?」

「ううん、もう行くわ」


恵理夜は、カバーをかけて鍵盤の蓋を閉めた。


「今、何時?」


春樹は、腕時計に目を走らせた。


「8時少し前ですね」

「薬、飲み忘れちゃった」


その時計を見ながら恵理夜は言った。

そして、春樹のたしなめるような視線に舌を出した。


「では、薬を用意しますから戻りましょう」

「ええ」


恵理夜は、丁寧に鍵盤の蓋を閉じカバーを掛けなおした。
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