夕闇の旋律
雪は止んでいて、空は晴れていた。

陽が沈み星が輝く。

けれど月がなくて、暗い。

夕闇に溶けていった歌は何か残してくれたのかな。

握った手は、もう冷たくて、固くて、だけど解きたくない。

ただ、涙があふれて、あふれて……止まらなかった。



3月1日

いろいろあって遅れてしまったけど、今日は橋本くんのお葬式が行われていた。

ささやかなものだ。

家族と、橋本くんと親しかった友人だけで行われる。

詩音は来ていなかった。

橋本くんが火にくべられるのを見て、気が滅入った私は外に出た。

すると、会場の外の道に詩音が立っていた。

お葬式には不釣り合いな白いワンピースを着て、会場から上がる煙を見つめている。

「し……」

呼びかけようとして、できなくなった。

詩音の歌が聞こえたから。

それはさびしい追悼歌。

やっぱり、さびしくないわけがないんだ。

詩音が歌い終わったとき、いつの間にか詩音は両手に抱えるほど大きな卵を持っていた。

「詩音!」

駆け寄って、初めて私は、その服が、どんなものだかに気づいた。

詩音は細い三つ編みを揺らして振り向いた。

「ミオ……」

詩音は嬉しそうに笑って言った。

「二つ、命が生まれたの」

「え?」

「一つは私の想いと、思い出」

詩音はそっと卵に頬ずりした。

「もう一つはね、大好きな人とのなんだよ」
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