有明先生と瑞穂さん
病院までバスで十分程度の道のり、人の少ないバスの中で有馬と口之津は口数少ないまま時間だけが過ぎていた。

しかしうつむいたままの有馬に痺れを切らし、とうとう口之津が口を開く。


「何で喧嘩になったんだよ」

「・・・・・・」


すぐには口を割らない。
それでも口之津はじっと有馬を見つめていると、ようやくボソボソと声を発した。


「くだらないことよ・・・」


――『有明先生は生徒に恋愛感情を持つことはない』

確かにくだらない。

それを伝えたところで、口之津は「また有明か」と気分を悪くするだけだ。



「実は布津から聞いたんだよ」


有馬は目を見開く。

知っているのに、なぜ――。


反応できないでいる有馬に口之津は「なんで今更」と、深江と同じことを言う。

それでも唇を噛んで耐えていると、一呼吸置いて口之津は外を見たまま寂しそうに呟いた。



「なあ祥子。お前って有明とどうしたいんだ?

俺と、

どうしたいんだ?」



「・・・・・・」





有馬が答える前にバスは病院前で止まり、口之津は先に降りる。


遅れて降りてくる有馬を待つことなく口之津は歩き始めた。


(はあ・・・)


ため息が出る。


口之津は本当はわかっているのだ。


以前は、本当に好きだったのかもしれない――


でもそれはもう今は『憧れ』であり、自分に対する気持ちとは別物だということに。


言うなら、有馬は芸能人にキャーキャー言うのと同じことなのに


それに嫉妬してしまうなんて・・・。



(わかってるけどやっぱり不安になるんだよ)


有馬自身は自分の気持ちの変化に、もしかしたら気づいていないのかもしれない。

自分は所詮、二番目なのかもしれない。


そういう気持ちがどうしても生まれる。

打ち消しても
打ち消しても――。



「待って!」


背後から息を切らして来る声に、口之津は振り向かずに足を止めた。
< 1,144 / 1,252 >

この作品をシェア

pagetop