春は来ないと、彼が言った。
途端に張り詰めた空気に困惑していると、急に視界がぶれ前のめりになった。
びっくりしていると、頭上から眠たそうにふわふわした声がゆっくりと紡がれる。
「ただいまー、椛ちゃん」
相変わらず妃ちゃんと同様に抑揚のない声で。
ペットボトルを数本抱えた藍くんが、のしっとわたしの頭に腕を乗せていた。
こんなに藍くんと接触したのは初めてで、どうすれば良いかわからず硬直したまま動けなくなる。
「っ、藍!」
「おまっ…!」
珍しく妃ちゃんが目を丸くし、恢が噛み付くように叫んだ。