幕末仮想現実(バクマツバーチャルリアリティー)
「織田、着いたぞ」
「あ、はいっ」

海軍局の建物は、海に面して建っていて、あたしたちは船から降りて、海際の階段を一同で、そろりそろりと登る。
高杉さんの合図で、仲間の一人が海軍局の戸を叩いた。
「萩表からの飛脚でござる」
「…」
息を飲むってこういうのを言うんだよね。
あっ、戸が動いたっ!
「行け!」
「わーっ!」
行けっ!行けっ!行けーっ!
押し込み強盗だぁ!
もう、何が何だかわかんないっ!
高杉さんにしごかれた剣の腕を発揮しなきゃ!
いや、やっぱり、誰もあたしにかかって来ないでー。
「織田、織田っ。いつまで、目ぇつぶったまま刀振り回しちょるんじゃ」
「えっ?」
「強盗はおしまいじゃ」
「え?おしまい?」
「今から、話し合いじゃ。早う、刀をしまわんか」
「は、話し合い?」
落ち着いて、回りを見回したら、皆、刀を納めて、海軍の役人さんらしき人を囲んでる。
高杉さんは、海軍の責任者らしき人の前に進み出た。
「軍艦三隻、我々に引き渡して頂きたい」
「…」
役人さんたちは顔を引きつらせて見合わせている。
そりゃ、軍艦三隻も簡単にくれないよね。
あ、ジリジリとこっちの何人かが刀に手をかけてにじり寄った。
「わ、わかりました。」
「そうか。それはありがたい」
って、ニヤッて笑う高杉さん。
…海軍、奪っちゃった…。
なんでー?
なんでこうも簡単に奪えるわけ?
「よし、すぐに下関に向かうぞっ」
「はいっ」
高杉さんの一言で、私たちは、軍艦に乗り換えて、下関に戻る事になった。
軍艦に乗ったら、高杉さんに聞いてみよ。

「高杉さん」
「なんだ?」
「どうして、海軍の役人さんたちは、こんなに簡単に、軍艦を譲ってくれたんですか?」
「三田尻の海軍局はのう、幕府に降伏したんで、今、軍事機能を停止中じゃったんじゃ。じゃから、あのままほおっておいても、いずれ、幕府に没収されるかもしれん軍艦じゃったわけじゃ。どうせ取られるんじゃったら、長州の僕にくれてやったほうがええと思うたんじゃろ」
「なーるほど。って、もしかして、高杉さん…」
「なんじゃ?」
「それも、計算済みだったとか?」
「あたり前じゃ」
…さすが、高杉さん。突拍子なく見えても、ちゃんと考えてあるんだよね。無駄な戦いを避けてる。
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