僕の愛した生徒


「あのさ、
僕たちの…『クシュン』」



僕が意を決して話そうとすると、それを藤岡の可愛いくしゃみが遮った。


藤岡はバツが悪そうに上目遣いに僕を見て


「先生ごめんなさい。

髪の毛がね、鼻をくすぐってね、
我慢しようとしたんだけど……
出ちゃった」


と苦笑いをした。



僕が話そうとしていたところ、
しかも、こんな真剣な場面で
くしゃみをしてしまうなんて

……藤岡らしい。



プププッ


思わず吹き出した僕。

それに藤岡も照れるように、自分の髪を指で梳(す)きながら笑った。



そして、その後で藤岡は再び真剣な顔つきをして


「先生、話を続けて?」


と僕を見つめた。



その藤岡の変わりようが可笑しくて、僕はもう一度笑う。


「なに?」


首を傾げる藤岡。

僕の笑いは何故か止まらない。


「もう、何なのよ?
人が真面目に聞こうとしているのに」


と、頬を膨らませた藤岡だったが

藤岡もまた僕につられて笑った。



その顔は生徒の藤岡の顔ではなく
僕だけが知っている奈菜の顔。



もう何だっていいや。





「奈菜」


僕は呼ぶ。


驚いた奈菜の瞳。

広がるあどけない笑顔。



この藤岡の

……奈菜の笑顔は僕が守りたい。


そんな風に思った。



「今度、二人でどこかに出掛けようか?」


微笑みながら頷く奈菜。


「で、先生の話って何?」



穏やかな風が奈菜の髪を揺らす。



「うん、何でもない。
もういいんだ」
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