ありのまま、愛すること。
父は、冷静に止血しながら、私の手の傷の具合を見て、すぐにタクシーを呼びました。


「美樹は大丈夫だよ。私が病院に連れていくから、お前は家で、待っていなさい」

そう母に告げ、タクシーに私を乗せて病院の救急病棟に向かいました。

母は、まだ外から帰らない姉の帰りを、家で待たなければならなかったのです。

タクシーの後部座席から後ろを振り返ると、青ざめた顔で見送る母の姿が見えました。

病院では麻酔を打ち、すぐに縫合手術をしてもらいました。縫ったのは3針です。

病院には、2時間ほどいたでしょうか。

包帯をしてもらって、すでにケロッとしていた私は、家に帰ってくるなり、母に抱きしめられました。

母はおそらく、その2時間を、一日千秋の思いで過ごしたに違いありません。

取るものも取りあえず、いても立ってもいられない心境だったでしょう。

「大丈夫? 大丈夫? 美樹さん。ごめんね、ごめんね……」

なぜ母が、ここで「ごめんね」と言ったのかが、当時の私にはわかりませんでした。

父は、母を安心させようと思ったのか、病院での私の様子を誇らしげに話しました。

「美樹は強い子だ。『男なんだから、泣くなよ』と言ったら、痛いだろうに一度も泣かなかったよ!」

その父の言葉が嬉しかったのでしょうか、元気に戻ってきた私の姿に安心したのでしょうか、母は言いました。

「今日はおいしいものをつくってあげますからね、何が食べたい?」

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