ありのまま、愛すること。
それから少した10月のある日、父から、

「大事な話がある」

と呼ばれ、家族全員が集められました。

「お父さんの会社は、今年中になくなるかもしれない。
つまり、倒産してしまうんだ。
お父さんの会社は債権者という人たちに、お金を支払わなければならない。
返せるだけは返すつもりだが、なかには満足できない人たちがいるものだ。
そういう人たちが、ピアノや、カラーテレビ、つまり家財道具を何もかも、持っていってしまうかもしれない。いま、この家のすべてがなくなるかもしれない……」

母が入院したころから、会社の経営は悪化していたんだと思います。

その理由は明白でした。
CMは著しくカラー化技術が進みましたが、いい色を出せる技師が会社にはいなかったんです。
望まれる色を出せず、何度かミスを出し、お得意さんが離れていきました。

母の死が先か、会社の清算が先か、というギリギリのところで、父はなんとか、母の葬儀を盛大にやりたかったのだとそのとき聞きました。

「いや、しかし、家族が路頭に迷うことなどあり得ないから安心しなさい。
これからの生活も、いままで通りとはいかないかもしれないが、お父さんはまた別の会社で働くことができる。だから、心配しなくていいよ」

父はそう言って、私たちの驚きと不安を少しでも和らげようとしていました。
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