ありのまま、愛すること。
集中治療室のベッドには、先ほどまで表情をさえぎっていた酸素マスクが外され、きれいな頬の母が寝ていた。

母は美しい色白であったから、その顔がいわゆる死に顔だなんて、私にはとうてい思えるはずがない。

「お母さん、お母さん、僕いま着いたばかりなんだよ。ごめんね、遅くなっちゃって。お母さん、僕が来るのを待ちすぎて、眠くなっちゃったんだよね、ねっ。ねえ、お母さん、今日も練習で、僕はいい当たりを何本も飛ばしたんだから。お母さん、ねえ、お願いだから目をあけてよ」

すでにもの言わない母になってしまっていることを、私は頭ではわかっているかもしれないが、心が断固としてその把握を拒絶していた。

でも、たとえ10歳の子どもでも、しばらくしていれば、いやが応にも心もそれを受け入れ始めてしまう、しかも勝手に、だ。

しばらく静かに頭と心がつばぜり合いしていた私は、そして心も母の死を自覚せざるを得なくなった。

今度はもう一度、声が張り裂けんばかりに泣き叫んだ。

「お母さ~ん、お母さ~ん…………」
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