ありのまま、愛すること。
友人が家に来れば、母は茶菓子を出して振る舞いました。

基本的には日中─夜まで仕事をしていましたから、いないときは祖母がもてなしの担当でした。

でも、母は、週末などには家にいるのです。当時で言っても「やり過ぎ」と思える振る舞いを、彼女は私の友人たちにしていました。

経営する会社の社長だという自負もあったのかもしれませんが、周囲の友だちがビックリするような、誕生日ケーキのような豪華なものを、私の誕生日でなくとも買ってきた。

当時、豪華なケーキといえば、不二家のショートケーキです。

それが、なにも私の誕生日ではなくとも、わが家に私が友人を招待するときには必ず並んだものです。

フルーツにしても、山盛りです。これはスーパーマーケットで手に入れるものというより、高級果物店で注文するフルーツ盛りの類のものです。

「嫉妬した」という私の感慨は、いま思えば矛盾したものであって、周囲の友だちにも同じように振る舞うほど、私を愛しているという感情の表現であったのかもしれません。

私の息子・美樹さんの友人であるあなた方には、美樹さんに近いだけの歓待をしましょうね、でも、いちばん大事にしているのは、美樹さんだということが、それを通じてきっと、わかることでしょうに。

そんなことを母が思っていたのだとすれば、案外俗っぽい人だったのかもしれません。

でも、私の個人的な嫉妬もあったことを考えれば、その嫉妬が母親を独占できないからくるものだとしても、それを差し引いても、母は元来、奉仕の精神に充ちあふれていた人であったのだということを、言えなくもないのではないでしょうか。
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