黒き藥師と久遠の花【完】
「みなもさん、大丈夫? 一体あの男に何をされたの?」  

 部屋の前から人の気配が消えた事を確かめてから、みなもはクリスタへ微笑みかけた。

「大丈夫、これは演技だから安心して――」

 不意にクリスタの白い手が、みなもの額にそっと置かれた。

「強がらないで。こんなに酷い熱、演技で出せる訳がないわ」

「確かに普通ならね。……でも俺は藥師。一時的に体調を変える薬を、俺は持っているんだ」

 みなもは口を動かしながら、襟下から赤い丸薬を取り出して飲み込むと、ゆっくり深呼吸を始める。
 空気を吸うたびに、少しずつ体が楽になっていくのが分かる。

 そこそこ痛みと熱が引いたところで、みなもは上体を起こす。
 まだ体に倦怠感は残っているが、のんびり回復を待つ余裕はなかった。
 
「あの男――キリは今のところ味方だ。うまく言いくるめて、見張りをここから離してくれている。今の内に早く逃げよう」

 立ち上がろうとして、みなもの体がふらつく。
 動けるまで回復しているが、まだ毒は残っている。胸から込み上げてくる悪心がひどい。

 咄嗟にクリスタが立ち上がり、みなもの肩を支えた。

「普通に歩けるの? もし駄目なら私の肩を貸すわ」

「ありがとう、クリスタさん。でも大丈夫、これぐらい平気だから」

 本当は少し動くだけでも気持ち悪いが、クリスタを心配させたくない。
 にこりと笑って悪心をねじ伏せると、みなもは努めて普段の速さで歩き始めた。


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