黒き藥師と久遠の花【完】
 きっとレオニードに言えば、困った顔をして「俺が守るから、もう以前のような無理はしないでくれ」と言う気がする。
 その顔を想像するだけで胸の中が温かくなった。

 クリスタの瞳がわずかに揺らぐ。
 そして少し寂しそうな、けれど、どこか安堵したような顔で笑った。

「本当にあの人のことが好きなのね。……ちょっと安心したわ。もしかしたらレオニードが貴方に騙されているんじゃないかって、心配していたから」

 この人も、心からレオニードを愛しているんだな。
 無性に嬉しくなると同時に、後ろめたさも滲んだ。

「クリスタさん……俺、レオニードは騙していないけれど、他のみんなを今も騙しているんだ」

「え? どういうこと?」

 小首を傾げたクリスタへ、みなもは軽く肩をすくめた。

「無事にここから逃げて、奪われた物を取り戻したら言わせてもらうよ。レオニードを想う貴女にだけは、言わないと卑怯だと思うから」

「……今すぐ聞きたいけれど、時間がないものね。分かったわ、後でゆっくりお茶しながら聴かせて」

 互いに視線を合わせて頷くと、みなもを先頭に部屋を出る。

 まだ体の倦怠感は残っていたが、泣き言は言っていられない。
 辺りの気配を探りながら、みなもは足音を殺し、部屋を出て左の廊下を慎重に歩いていく。

 薄暗いその先には、ぼんやりと下へ降りる階段が見えた。
 刹那、ギッギッ、と木を軋ませながら階段を上がってくる足音が聞こえてきた。

 相手は一人。
 この体では普段よりも動きは鈍くなっているだろうが、負ける気はしない。

 みなもは素早くしゃがみ込み、靴先に仕込んである毒の刃を取り外す。
 そうして持ち手の穴に指を通し、前を見据えながら刃を構えた。
 
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