黒き藥師と久遠の花【完】
 罠かもしれないという不安は拭い切れない。
 だが、こんな手紙を渡して自分たちと接点を作るより、関わろうとしない方が連中にとって都合が良いはず。

 接点が生まれれば、それだけで足がつく可能性は出てくる。
 もしアジトへ自分たちが偶然アジトへ辿りついたとしても、知らぬ存ぜぬで通して時間稼ぎした方が、品物を持って逃げ出せるのではないだろうか?

 不意に、ある可能性がレオニードの脳裏へ浮かんだ。

(まさか、連中が女神の衣装を盗むことを知っていて、それを横取りしようと企む人間でもいるのか?)

 自分たちがアジトで暴れれば連中の気が逸れて、盗品を奪いやすくなる。
 そして連中を撹乱できる人間が一人でも多くいれば、奪える機会はさらに増える。
 だからみなもと手を組み、この手紙を渡してきたという可能性は十分に有り得る話だ。

 もっとじっくり考えたいところだが、今は一刻を争う。
 レオニードは腹を決めると、ボリスの肩を叩いた。

「まずは手紙に書いてある通りにしよう。もしこの内容が真実なら、二人を早く助けられる」

「そうだね。もしこれが罠で僕たちが捕らわれるとしたら、そっちの方が好都合かも――」

 ボリスが腕をほどいて頭を上げる。
 口元に笑みを浮かべていたが、その目はひどく無機質だった。

「――だって連中を探す手間も省けるし、気が済むまで暴れられるから」

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